2013-12-10 飛び級後に,苦しんで得たもの

この記事を書く経緯

   本記事は「はぐれ学生Advent Calendar 2013」 http://www.adventar.org/calendars/131 という企画のひとつです。
   本企画では「はぐれ学生」とは、大学などの学校を中退、休学、留年した方、また、仮面浪人やちょっと変わった進路を選んだ方などを指すことにします。

ふと見つけたはぐれ学生 Advent Calendar 2013で,最後の1日が空いていたのですが, その日がなんと私の誕生日である12/10(今日)だったのです. これも何かのご縁かと思って, 本日の記事を書かせていただきます.

結構長いですが,真面目にこれまでを振り返って書きました. 一読して頂ければ幸いです.

自己紹介

NAIST(奈良先端大)の博士後期課程3年生の@shirayuです. 現在,博士論文執筆の追い込み中です.

私は学部3年のときに大学学部を中退して,大学院(修士課程)に進学しました. いわゆる「飛び級」なので,ネガティブな中退ではありません. これだけ書くと順風満帆のように感じるかもしれません.

しかし,入学してから,とても苦しい大学院生活が始まりました. もちろん楽しいことも沢山あったのですが, 今日は, 普段表には出さない, 何がこれまでの5年間で苦しかったのか, そしてそこから何を得たのか, ということについて,書きたいと思います.

研究のイロハが分かっていなかった

意気揚々として入学したわけですが, 入学して数ヶ月は,はじめての一人暮らしや,多い授業などで, 忙しくも楽しく過ごしていました. しかし,夏休み,秋,冬になっても,研究が全然進まなくて,次第に気持ちも落ち込んで行きました.

まわりの同期が全国大会に論文を投稿するとか,そんな話を聞くと, 別に意識しなくてもいいとは思いつつも,焦燥感を感じずにはいられませんでした.

今になってみれば,研究が進まず空回りしていた理由は明白で, 先行研究のサーベイを全くしていなかったからです. そもそも,論文を1本も読まずに, とにかく手を動かそうとして,意味もなく実装をしようとしていたからです.

他の人がどんなことをやって,何が現在の研究の主流か,どこに改善点がありそうか,ということが分かっていないまま, 研究なんて,なんて無茶苦茶な話なんだ,と今なら思います. はっきり言って研究のイロハが分かっていなかっていませんでした.

大学に4年間在籍してから大学院に来た人は,卒業論文で一通り研究のやり方について手ほどきは受けているので, このへんのことは分かっているのでしょうが…….

入学したときは,他の人より1歩先に進んでいるのでは,というように考えていました. が,よくよく考えると, 他の人は卒論での研究経験があったり, 社会人経験があったり, 他分野での修士号を持っていたりで, そういう人と同じスタートラインに並んで出発したということは, 逆にハンデを背負っているのだ*1ということに気づいて,愕然としたりもしました.

*1 1年分余裕を持っていると励ましを頂いたことも何度か有りますが,そのような考え方はできませんでした……

3つの失敗

英語論文から逃げていた

とはいえ,研究の指導を受けていなかったかというと,そんなことは無くて,「闇雲に実装するよりも,まずはちゃんと英語の最新の論文を読んだほうが良い」,というアドバイスを何度も受けていました. しかし,英語に慣れて無くて,しかもよくわからない専門用語が出てくる論文からずっと逃げていました.

結局M1の春過ぎに腹をくくって論文を読み始めたのですが, 詳しくは,過去の日記(一流会議の論文を100本読むと大体わかってくるというのはガチ)をご覧ください.

最初に論文をしっかりと読まなかった,というのは1つ目の失敗だったと思うことです.

ドラッカーが

仕事や地位や任務が変わったときには、新しい仕事が要求するものについて徹底的に考えるべき

と成果を上げるための要点の1つに挙げていますが*1学部生から大学院生に変わったのであれば,早く新しい仕事の仕方を身につけるべきでした.

論文誌を早く書かなかった

その後,なんとか修論を出して,博士課程に進学しました. 2つ目の失敗はジャーナル(論文誌)を投稿する前に,新しい研究に手を出したことです.

一般に情報系の研究は,「査読無し国内研究会・全国大会→査読有り国際会議→査読有り論文誌」という3ステップを経て, 1つの研究テーマが"終わり"ます*2

大学院を修了するためには,必ず論文誌が受理される必要があるのですが, 博士課程に進学した私は修士の研究を"終わらせる"ことなく, 色々と新しいテーマに手を出し始めました.

一番の理由は 「早く新しい成果を出したい」という焦りでした. 他の人が色々な研究をしているのを見ると,自分も色々しないと,という変なプレッシャーを感じていたのが事実です.

また,

  • 論文誌を書く,というのは,これまでの「まとめ」を行うので,新しいことをするというの楽しさは,少し色あせてくる
  • 国際会議と違って,受理されたからといって,海外に発表へ行けるようになるわけではない

というのも積極的にならなかった理由になるかもしれません.

そういうわけで,論文誌をなかなか書かなかったのです……. 今となっては,新しいことをやる前に, まずこれまでのことをしっかり"片付ける"べきたったと思います.

論文誌までかいて,研究の1サイクルを早く終わらせなかった. これが2つ目の失敗だったと思います.

打たれ強さ

3つ目は「失敗」とは少し違うのですが, 大学院に入学した頃と今で違うことの1つは,少しは打たれ強くなったということだと思います.

大学院入学までで,学業での失敗というのは, 大学受験の推薦入試に失敗した事や,幾つか単位を落としたことだと思います. しかし,大学受験では第一志望に一般入試で合格できましたし, 単位を再履修でなんとか挽回できたので, そこまで長期に渡って痛手を感じたわけではありませんでした.

しかし大学院では,色々とうまくいかないことが多かったです.

学振特別研究員(DC2)には,2回出して,1回目も,2回目も不採用になりました. 結構な時間を費やして準備したので,不採用になったのはショックでした. さらに,辛かったのは,同じ応募に出した人の採用されたという話を聞くことでした. 自分がうまくいかない時は,なかなか他の人の成功を素直には喜べないものです.

インターンや,民間の研究助成に応募して不採用になったりもしました.

別のインターンに行く機会を頂けたりと,全ての"応募"に失敗したわけではありませんが,うまくいかないことの方が多く,色々と残念な思いをして,凹んだりしました.

しかし,このような経験を通して,打たれ強さというか謙虚さを身につけることができたと思います.

過去の日記(何度フラれても,自分をあきらめない)で, 博士課程学生に必要な能力の1つに「打たれ強さ」があるという事を書きましたが, 別に博士課程学生でなくても生きていく上でも大切だと思います.

私がお世話になった伊藤謝恩育英財団の理念の一節に

順境におごらず,逆境にひるまず

とあるが, 本当にその通りだと,腹の底から思います.

最近好きな,槇原敬之の「どんなときも。」の一節です.

焦る気持ち溶かして行こう
そしていつか誰かを愛し
その人を守れる強さを
自分の力に変えて行けるように

辛い気持ちをしている他人の気持ちに寄り添ったり,というのも少しは, できるようになれたかな,と思います.

*1 他に5つの重要な要点を挙げています.非常に為になった本なので,皆様も是非お読みください

*2 当然,研究はいくらでも改善の余地があるので,本当の意味で研究が終わるということはありません.が,そう言っていては,いつまで経っては終わりはないので,ある程度で区切ります.

まとめ

これまでの大学院生活を振り返り,3つのつらかった事を取り上げました. 入学当初こそは「飛び級」という点では華やか*1なスタートでしたが, その後は,苦労しました. しかし, 当時は非常に辛かったですが,とても貴重で重要な人生経験をさせていただいたと思います

大学院では専門分野の知識も身につけることができましたが, それよりも

  • 英語文献に立ち向かう勇気
  • 英語でコミニュケーションしようとする気概
  • 科学的な思考法
  • 逆境でも,めげない力

というような人生においての態度のようなものを得られて, とても良かったと思っています.

If a man empties his purse into his head no one can take it away from him.
An investment in knowledge always pays the best interest.
 - Benjamin Franklin

まだまだ博士号取得やその後が不安定な状況なのですが, 前向きに精一杯頑張って行きたいと思います.

最後までお読みいただき,ありがとうございました.

*1 前線で輝いているように見える,あの人だって,影ではきっと辛い思いもしたでしょう.往々にして,華やかなところしか,他人には見えないものです.

本日のツッコミ
AknEp (2013-12-10 [Tue] 00:51)

アドベントカレンダー1日目を担当させていただいた、あおみかんです。 興味深い記事でした。
以前から、3年次で退学する実質飛び級って、修士で上手く行かなかったらどうすんだ…高卒じゃねーか… って思ってたんですが、そういう最悪の事態にはなっていないようで、ホッとしました。

t.m (2013-12-10 [Tue] 06:32)

NAISTの1期生で飛び級入学した者です。在学当時を懐かしく思いながら読みました。
書かれていませんが、教員や学生とのコミュニケーションは充実していたのではないかと想像します。
お体に気をつけて、D論完成させてください。

shirayu (2013-12-10 [Tue] 21:49)

□AknEpさん
コメントどうもありがとうございます.
そうですね,「短期卒業」とは異なるので,学士の学位がないのがネックです.
修士号を断念するが学士が欲しい場合は,
放送大学や学位授与機構という手はあります.


□t.mさん
コメントどうもありがとうございます.
NAISTの1期生で飛び級した方がいらっしゃったのですね.
未知のところへイレギュラーな形で飛び込むのは,不安も多分にあっただろうとお察しします.

はい,とても充実した濃い研究室生活で,感謝しています.
開学当初と比べれば,現在は,北生駒駅やスーパー等,近隣環境は充実していると思いますが,
それでも他学と比べれば陸の孤島のようなところなので,
必然的に研究室に足がよく向きますし,
コミュニケーションは密になりますね.

D論がんばります!

Hagiwara (2013-12-12 [Thu] 06:14)

誕生日おめでとう!記事読ませていただきました。まさに学生としての葛藤が書かれていて、学生だった当時の自分がこういったアツい想いを読めたら良かったなと思いました。インターンを通じてもコミュニケーションや「逆境に立ち向かう力」はずいぶんと伸びたと思います(と期待してます!) D論がんばって!

Jota (2013-12-12 [Thu] 18:34)

ご無沙汰してます。誕生日おめでとう!
失敗体験談は、合格体験記よりもはるかに価値のあるものだと思います。その意味でこの記事は研究を始めたばかりの多くの人に参考になるものですね。また会いましょう!

shirayu (2013-12-13 [Fri] 15:06)

□ Hagiwaraさん
どうもありがとうございます!
はい,インターンの経験も,本当に良い思い出です.
どうもありがとうございます.
D論がんばります!

□ Jotaくん
久しぶり!
コメントありがとう!
5年前の自分に読ませたいと思うよ(笑)
うん,ぜひまた会おう!!